月別アーカイブ: 2017年11月

台湾旅行 カヴァラン蒸留所訪問記 その2

一通り案内していただいた後は、ビジターセンターのカフェで試飲をしながらいろいろとお話をさせていただきました。

以下はあくまでも私的な会話ですので、これがカヴァランの公式見解ではありません。私が意味を誤ってとらえていることもありますので、参考程度にお願いします。

 

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――とても大きい蒸留所で圧倒されました。ウイスキー事業を始める際に、もっと小さい規模からスタートする、という考えはなかったのでしょうか?

台湾を見て頂ければ分かると思いますが、ここには大きなウイスキー市場があります。また、世界的にもシングルモルトが盛り上がってきていた時期でした。もちろん入念なリサーチは行ったと思いますが、この規模のウイスキー事業は問題なくいけるとトップは考えたようです。

KingCarは、何事も大きくやっていこうという考え方があります。最初から大きな市場を見据えていましたので、ポットスチルも大規模蒸留所と同じくらいのサイズをスコットランドのフォーサイス社に発注しました。

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ポットスチルやスピリッツセーフはフォーサイス製

 

――台湾はウイスキー市場がとても大きいのですが、みなさん良くウイスキーを飲むのですか?

そうですね、結構飲みますよ。台湾人は本当にウイスキーが好きで、世界でもトップクラスの市場があります。でも、暑いときはやはりビールですね(笑) ビールに氷をいれて飲んだり……日本ではやらないとは思いますが。

――ベトナムでは良く飲みましたよ、氷入りのビール。向こうでは普通はビールが冷えていないですからね。でも、台湾ではほとんどの場所でビールは冷やされて出てきますから美味しく飲めました。

台湾の人は酒を飲むのが好きな人が多いですよ。乾杯を何回もやったりね。

 

――モルトは海外産(イギリス産)とのことでしたが、その理由は?

台湾は気候の問題で大麦を育てるのには向いていません。麦は寒いところで育つものですから。品質の高い大麦を確保するためにはイングランドやスコットランドから輸入するのが一番です。ピートを炊いたモルトも輸入しています。蒸留所の外観ではパゴダが見えたと思いますが、残念ながらあれは飾りです(笑)

 

――カヴァランは樽の処理がとても巧いように思います。何か秘訣はあるのでしょうか?

質の良い樽を買い付けてくることも重要ですが、もうひとつ重要なのは樽の再利用です。この敷地内に樽をリメイドできる設備があり、また、樽のトーストやチャーなどにもかなりの研究を重ねています。最終的には人手で組上げとチェックを行っていて、そのための技術者を育てています。そうしたトータルでの樽へのこだわりを持っています。

現在ではもう一般的だとは思いますが、樽の管理にはQRコードを使い、定期的なチェックも効率的に行えるようになっています。樽番号も分かりやすいですよ。先ほどお教えしましたが……

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――はい。最初のアルファベットが樽の種類(R:リフィル、B:バーボン、S:シェリー etc…)でその後に月、日、1日の通し番号が3桁、でしたね。

そうですそうです。シングルカスクのカヴァラン・ソリストにはラベルにこの樽番号が記載されていますので、いつ蒸留されたどんな樽かが分かるようになっています。

 

――工場内にはあまり人がいないように見えましたが、何名くらいの方がここで働いているのでしょうか?

だいたい150人ほどでしょうか。ただ、ここにあるのはウイスキー事業だけではありませんので、ウイスキーの製造に関わっているひとはもっと少数です。20人くらいだと思います。各作業はほとんどが自動ですが、ニューメイクは定期的に人が官能チェックを行っているなど、要所要所では必ず人手が入ります。

 

――そういえば、カヴァランは2017年のベスト蒸留所(Spirits Producer of the Year)に選ばれたんですね。おめでとうございます。

ありがとうございます。つい先日のことですが、とても名誉ある賞を頂けました。現在カヴァランは年間で100万人以上のビジターがあります。さきほどバスが何台も来ていたのを一緒に見ましたね? 観光にはちょうどいい立地というわけです。そして、カヴァランのブランドをもっと知ってもらうためにもたくさんの訪問者を受け入れています。ほら、下の試飲スペースも盛り上がっていますよ。

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1Fが売店と試飲スペース。2Fにカフェがあるビジターセンター

 

――日本には何回もいらっしゃっているのでしょうか?

ええ、もう結構な回数になりました。そういえば、明後日にも行きますよ。ウイスキーフェスティバル(11/26開催)に参加します。

――(聞くと、自分のフライトと同じでした。なんと奇遇な。)当日のフライトとは、大変ですね……。そういえば、来月でしたか、台湾でもイベントがありますよね。

はい、南の高雄で Whisky Fair がありますので参加予定です。日本からもお越しになる方がいらっしゃると聞いていますよ。台湾でもあちこちでウイスキーイベントがありますので、ぜひ台湾観光とともにウイスキーイベントに参加してみてほしいですね。

 

 

カフェを後にして、帰りのタクシーが車での間に再び敷地内を歩いてみました。雄大な自然を眺めながら、しかし一方で技術の粋を集めたかのようなウイスキーづくりをしている。各行程の効率化や品質コントロールの技術、そしてなにより熟成が早い台湾の気候が大きなアドバンテージになっていて、平均5年ほどでこれほどの品質のものがリリースできるというのは、熟成期間が比較的長いスコッチ・ウイスキーにとっては大きな驚異でしょう。

カヴァランが作るのは、大量生産だが安物っぽさは感じさせない本格派のウイスキー。それはグレーンを作らずシングルモルトだけで勝負していく姿勢からも明らか。大量生産できるグレーンを使えばもっと安価にすることも可能ですが、目指す品質にはあたわないのでしょう。説明のなかで何回も出てきた「品質」という言葉。彼らのウイスキーは、これからますます素晴らしい品質のウイスキーを世界に提供しようとしています。カヴァランは本気で世界のウイスキー市場を狙っている。そんな気概をひしひしと感じながら、蒸留所を後にしたのでした。

 

台湾旅行 カヴァラン蒸留所訪問記 その1

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2008年にオープンしたカヴァラン蒸留所は、2012年から各種の世界的な賞に輝いて以来、常にトップクラスの品質を保ち続けています。まだ10年にも満たない台湾のウイスキー蒸留所がどんなところにあるのか、以前から気にはなっていたのですが、今回ようやく訪れることができました。

この記事では蒸留所の訪問記録についてまとめています。カヴァラン蒸留所への行き方については別記事にまとめてみたいと思います。

 

台湾の中心地台北から、カヴァラン蒸留所がある東部の宜蘭(イーラン)までは特急列車で約1時間という小旅行にはちょうど良い場所。出発こそ地下のホームなので風情は感じられないものの、途中からは山を抜け海を望む風景が広がり、旅らしさも感じることができるルートです。さしずめ、東京から熱海に向かうようなものでしょうか。

朝10時に宜蘭の町に到着。そこまで大きな駅舎ではありませんでしたが、観光客はそれなりに来る場所のようです。しばらく時間を潰そうとぶらぶらしていると、駅にほど近い場所には市場が。かなり猥雑な感じで、観光向けではなくどちらかといえば現地の人に向けた食材を売っている場所のようです。ほとんどの場所が他所者のことなんか知らん的な雰囲気があり、その土地ならでは感があるのが逆に良い。

昼食を地元の食堂ですませたあとはカヴァラン蒸留所へ向かいます。駅からはタクシーが便利、というか実質的にタクシーしか選択肢がありません。バスもあるようですがあまり本数が多くないのと、停留所がかなり離れているようなのでお勧めできません。15分程度で270元という道のりでした。

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駅から離れるにつれて徐々に田舎らしい風景が。5分も走れば周りには民家と田畑、遠くに雄大な山々がそびえる光景、のんびりとした田園風景です。

 

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周りにはほとんど大きな建物がないところに、カヴァラン蒸留所だけがどっしりと構えている。エントランスを抜けてビジターセンターまで向かってもらうと敷地内をぐるりと巡ることになるのですが、これがかなりの広さ。日本の蒸留所と比べても御殿場や余市よりも格段に大きく、白州と同じくらいはありそうな。たくさんの木が植えられているのを横目に見ながら敷地内を抜けていきます。

13時、コンベンションセンターでKingCarグループの紹介ビデオを見た後、2人の方と挨拶を交わしました。お二人はカヴァランのスタッフで、今回は知人の協力で敷地内を案内していただけたのでした。この場を借りて感謝を。ありがとうございます。

 

DSC06042.jpg敷地をぐるりと巡りながら順に設備を案内して頂き、まずは天然水のボトリング設備へ。ここは白州蒸留所と同じように天然水の工場があるのです。水はウイスキーにとっても命。背後にそびえる山々のきれいな水を使っているとのこと。カヴァランがここに建設されたのもこの水があったからだそうです。水の重要さはどこでも変わりませんね。

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続いては樽工場。樽のトーストが半自動で行われている様子が外から見えました。また、内部では樽の解体製造している様子が遠目ですが見えます。全体の工程の中でここが一番人が多いように見えました。

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DSC06048.jpgメインとなる蒸留設備は、現在2棟に分かれています。最初に建造された第1棟(キルンが目立つ建物)では蒸留器が当初は2ペア4基でしたが、2016年1月に2ペア6基を増設し合計5ペア10基に。さらに裏手には第2棟(上の写真2枚)が完成しており、こちらにも5ペア10基と、大きな生産力になっていました。年間生産力はボトル1000万本分。それだけウイスキー需要があると見込んでいるのでしょう。

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第2棟の内部は見れませんでしたが、第1棟はフリーの見学コースになっています。糖化槽発酵槽が並び、続いてポットスチルが並ぶスペースが見えてきます。最初に設置されたポットスチルは右手側に。

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そして左手側には、3ペア6基のポットスチルとともに、ドイツ製のものというスチルが並んでいました。

 

DSC06111.jpgそのさらに奥には熟成庫があり、1階部分を見ることができます。これが庫全体では5階あり、樽の種類によって配置を決めているそうです。低い階層は温度が比較的低く、ここにはバーボン樽を配置。一番上は平均で40℃以上にもなり、主にシェリー樽を配置しています。熟成の早さの鍵はこのような熟成庫の構造にもありそうです。

その2に続きます。

アベラワー 12年 オフィシャル1980年代 V.O.H.M.表記

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Abelour V.O.H.M. 12yo (OB +/-1980s, 750ml, 43%)

香りはむせ返るようなアプリコットジャム、陶酔感のあるシェリー感、セクシーなムスクやコロン、獣の毛皮、紅茶、微かに灯油のニュアンス。

味わいはトフィ、爛れかけたイチジクやオレンジ、じんわりと広がる紅茶の葉、ミドルからざわざわと植物感、綺麗にまとまったオークのエグミと、白粉の餅の甘さ、ややオイリーさを残したイチジクのニュアンスが続くフィニッシュ。

【Very Good】

アベラワー蒸留所は1974年にペルノリカール社に買収されました。ブランデーが主要な同社の影響らしく、シングルモルトにも関わらずまるでブランデーのようなボトルが使われました。V.O.H.M. (Very Old Highland Malt)という表記もブランデーのV.S.O.P.とよく似ていますが、なんかちょっとパチもんみたいで微笑ましい感じがありますね。

おそらく1980年前後のボトリングと思われるこちらは、逆算すると1970頃の蒸留となり、流石に原酒や樽にも恵まれていた頃なのでしょう。流石にトロピカルや突き抜けたさ高貴なシェリー感とまではいかないものの、独特のくぐもった毛皮やムスクのようなニュアンスは軽い妖艶さを伴っていて物珍しさもある。あるいはヒネとも言えるかもしれないが、現在の若いモルトでは出せないニュアンス、近年ではほとんど消えてしまった味わいを感じることができます。

日本でも輸入している業者が多かったためか、オークションでもそれなりに数が出回っている様子。また、同じシェリー樽使いの蒸留所であるマッカランやグレンファークラスほど人気が出ていないので、10000円少々とまだそれなりに手頃な値段でてに入ります。現在でもなかなかのボトルであれば同じくらいの値段になってしまいますから、それを考えれば悪くないチョイスだと思います。

 

グレンモーレンジ アスター 2017リリース

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Glenmorangie ASTAR (OB, 2017, 52.5%)

香りはハチミツ、ネーブルオレンジなどの柑橘、バニラチョコレート、ハイトーンで洗練されたクリアな清涼感のある木香、奥に熟したイチジク、実にアスターらしい香り。

味わいはややしっかりした口当たりから、透明感のあるハチミツ、バニラケーキ、アンズ、サワーヨーグルト、ミドルから木材の収斂味、良いバーボンらしい木のニュアンス、焦がしたチョコレート、トフィー、シナモンと木の香りが良く残るフィニッシュ。

加水すると香り味ともに樽を焦がしたようなニュアンスがエッジを強める。ボディはあまり膨らまない。ストレートの方が満足感が高くオススメ。

【Very Good】

あのグレンモーレンジ・アスターが帰ってくる、というニュースを聞いて嬉しくなった人も多かったことでしょう。自分もそのひとりでした。

2008年~2012年にリリースされていたアスターは、ワールドワイドな展開だったためか日本でも手に入りやすいボトルでした。仲間内でも「近年ボトルの中では抜群の安定度で美味い」というのが当時の評価だったと記憶しています。また、700mlボトルで5000円程度という値段の安さも魅力的で、非常にコスパの良いボトルでした。モルトの入門者向けとしても、ファーストステップのオフィシャルスタンダードから続くセカンドステップとして、アベラワー・アブーナなどと共に名前が挙がることが多かったと思います。

アスターの特徴は何と言っても「樽の影響を真剣に研究した結果」であること。ビル・ラムズデン博士が研究してきた「デザイナーズカスク」による、グレンモーレンジの樽使い。それらの知識の結集がこのアスターです。嫌味のない綺麗な樽感、そしてどこか華やかさも兼ね備えたまさにバーボン樽のお手本とも言える樽使い。前アスターのときから評判が良かったですね。

今回の2017年リリースではどうなのかと期待しながら飲んでみました。まず香りからして、いかにもグレンモーレンジらしい、そして、アスターらしい香り、とでも言えましょうか。バーボン樽の良い香りが広がります。味も洗練された嫌味の無い素直な味で、原酒由来と思しきフルーツやハチミツのような味わいがトップに、ミドルからは樽感の良い香りが鼻腔全体に広がっていきます。

総じて満足感が高い、近年系のバーボンカスクのモルトとしては実に素晴らしい出来栄えです。

 

しかし一方で、同じアスターならば以前のリリースはやはりお手頃だったという印象が否めない……。こればっかりは時代背景にもよりますので仕方のないことですが、どうしても比較してしまいますね。

昨今のウイスキーブームによる品薄、原材料費の高騰、そして為替の影響も大きいと思います。前アスターのときはちょうどリーマンショックがありかなりの円高でした。当時と比べると2017年は2割ほど上がっていることになりますから、少なからず値段にも反映されてしまっています。

いろいろと現実を見せつけてくれるリリースですが、間違いなく今の時代を代表するハイクオリティなボトルだということもまた確かだと感じました。

 

バルヴェニー “ピートウィーク” 14年 2002ヴィンテージ

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Balvenie “Peat Week” 14yo 2002 Vintage (OB, American Oak Casks, 48.3%)

香りはハチミツ、酸味のあるベリー、スモモ、ショウガ、軽くベーコンのような燻製香、ややスモーキー、枯れ草のニュアンス。

味わいはとろりとした麦の甘み、薬用トローチ、ジンジャーハニー、ミドルからややオイリーで塩気を伴うベーコン、塩バター、枯れ草の灰、余韻にかけてしっとりとピーティさ、ホワイトペッパーとジンジャーを伴うフィニッシュ。

【Good/Very Good】

バルヴェニー蒸留所は伝統的な製法が特徴的で、現在もフロアモルティングを続けている数少ない蒸留所。2002年から1年に1週間だけヘビーピートを焚く期間があり、それを Peat Week としているそうです。ボトルの外箱には、各年のピート週間がいつだったのかを表す記載があります。今回のボトルは2002年に始めた Peat Week の初のリリースとなります。

香味は麦感主体で、ややクラシカルな雰囲気。フルーツ感は全体的に控えめながら奥に潜んでいるような、どこか奥ゆかしさを感じます。30ppmというヘビーピートという割にはピーティさはあまり強くなく、アイラ系の島モノのピートとも少し異なり、よく燻したベーコンのようなニュアンスも少し感じたのが面白いところでした。

という香味の感想を持ちながらリリース情報などを探してみたところ、どうやら使用しているピートがフェノール値の低いものらしく、アーシーさ、スモーキーさが強調されるとともに、島モノのような塩気や薬品様が抑えられているとのこと。なるほど納得です。ひと口にピートといってもいろいろな種類があることがよくわかりました。

 

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バルヴェニー蒸留所のフロアモルティング場。柱にはOpticの文字があり、大麦はオプティック種が使用されているようだった。

 

圧倒的なフルーツ感も高貴さも備わってはいないものの、かなり複雑で飲むたびに新しい発見があります。加水と思われる度数もちょうど良いバランスで、飲みごたえを保ちつつハードパンチャーにならないように気をつけているような印象を受けました。

暫くは毎年リリースがあるのでしょうか? 来年も楽しみですね。