一通り案内していただいた後は、ビジターセンターのカフェで試飲をしながらいろいろとお話をさせていただきました。
以下はあくまでも私的な会話ですので、これがカヴァランの公式見解ではありません。私が意味を誤ってとらえていることもありますので、参考程度にお願いします。
――とても大きい蒸留所で圧倒されました。ウイスキー事業を始める際に、もっと小さい規模からスタートする、という考えはなかったのでしょうか?
台湾を見て頂ければ分かると思いますが、ここには大きなウイスキー市場があります。また、世界的にもシングルモルトが盛り上がってきていた時期でした。もちろん入念なリサーチは行ったと思いますが、この規模のウイスキー事業は問題なくいけるとトップは考えたようです。
KingCarは、何事も大きくやっていこうという考え方があります。最初から大きな市場を見据えていましたので、ポットスチルも大規模蒸留所と同じくらいのサイズをスコットランドのフォーサイス社に発注しました。
――台湾はウイスキー市場がとても大きいのですが、みなさん良くウイスキーを飲むのですか?
そうですね、結構飲みますよ。台湾人は本当にウイスキーが好きで、世界でもトップクラスの市場があります。でも、暑いときはやはりビールですね(笑) ビールに氷をいれて飲んだり……日本ではやらないとは思いますが。
――ベトナムでは良く飲みましたよ、氷入りのビール。向こうでは普通はビールが冷えていないですからね。でも、台湾ではほとんどの場所でビールは冷やされて出てきますから美味しく飲めました。
台湾の人は酒を飲むのが好きな人が多いですよ。乾杯を何回もやったりね。
――モルトは海外産(イギリス産)とのことでしたが、その理由は?
台湾は気候の問題で大麦を育てるのには向いていません。麦は寒いところで育つものですから。品質の高い大麦を確保するためにはイングランドやスコットランドから輸入するのが一番です。ピートを炊いたモルトも輸入しています。蒸留所の外観ではパゴダが見えたと思いますが、残念ながらあれは飾りです(笑)
――カヴァランは樽の処理がとても巧いように思います。何か秘訣はあるのでしょうか?
質の良い樽を買い付けてくることも重要ですが、もうひとつ重要なのは樽の再利用です。この敷地内に樽をリメイドできる設備があり、また、樽のトーストやチャーなどにもかなりの研究を重ねています。最終的には人手で組上げとチェックを行っていて、そのための技術者を育てています。そうしたトータルでの樽へのこだわりを持っています。
現在ではもう一般的だとは思いますが、樽の管理にはQRコードを使い、定期的なチェックも効率的に行えるようになっています。樽番号も分かりやすいですよ。先ほどお教えしましたが……
――はい。最初のアルファベットが樽の種類(R:リフィル、B:バーボン、S:シェリー etc…)でその後に月、日、1日の通し番号が3桁、でしたね。
そうですそうです。シングルカスクのカヴァラン・ソリストにはラベルにこの樽番号が記載されていますので、いつ蒸留されたどんな樽かが分かるようになっています。
――工場内にはあまり人がいないように見えましたが、何名くらいの方がここで働いているのでしょうか?
だいたい150人ほどでしょうか。ただ、ここにあるのはウイスキー事業だけではありませんので、ウイスキーの製造に関わっているひとはもっと少数です。20人くらいだと思います。各作業はほとんどが自動ですが、ニューメイクは定期的に人が官能チェックを行っているなど、要所要所では必ず人手が入ります。
――そういえば、カヴァランは2017年のベスト蒸留所(Spirits Producer of the Year)に選ばれたんですね。おめでとうございます。
ありがとうございます。つい先日のことですが、とても名誉ある賞を頂けました。現在カヴァランは年間で100万人以上のビジターがあります。さきほどバスが何台も来ていたのを一緒に見ましたね? 観光にはちょうどいい立地というわけです。そして、カヴァランのブランドをもっと知ってもらうためにもたくさんの訪問者を受け入れています。ほら、下の試飲スペースも盛り上がっていますよ。
――日本には何回もいらっしゃっているのでしょうか?
ええ、もう結構な回数になりました。そういえば、明後日にも行きますよ。ウイスキーフェスティバル(11/26開催)に参加します。
――(聞くと、自分のフライトと同じでした。なんと奇遇な。)当日のフライトとは、大変ですね……。そういえば、来月でしたか、台湾でもイベントがありますよね。
はい、南の高雄で Whisky Fair がありますので参加予定です。日本からもお越しになる方がいらっしゃると聞いていますよ。台湾でもあちこちでウイスキーイベントがありますので、ぜひ台湾観光とともにウイスキーイベントに参加してみてほしいですね。
カフェを後にして、帰りのタクシーが車での間に再び敷地内を歩いてみました。雄大な自然を眺めながら、しかし一方で技術の粋を集めたかのようなウイスキーづくりをしている。各行程の効率化や品質コントロールの技術、そしてなにより熟成が早い台湾の気候が大きなアドバンテージになっていて、平均5年ほどでこれほどの品質のものがリリースできるというのは、熟成期間が比較的長いスコッチ・ウイスキーにとっては大きな驚異でしょう。
カヴァランが作るのは、大量生産だが安物っぽさは感じさせない本格派のウイスキー。それはグレーンを作らずシングルモルトだけで勝負していく姿勢からも明らか。大量生産できるグレーンを使えばもっと安価にすることも可能ですが、目指す品質にはあたわないのでしょう。説明のなかで何回も出てきた「品質」という言葉。彼らのウイスキーは、これからますます素晴らしい品質のウイスキーを世界に提供しようとしています。カヴァランは本気で世界のウイスキー市場を狙っている。そんな気概をひしひしと感じながら、蒸留所を後にしたのでした。