カテゴリー別アーカイブ: テイスティング

グレンバーギ 26年 1989-2016 マキロップチョイス #16309 53.3%

Glenburgie 26yo 1989-2016 (Mackillop’s Choice, Cask#16309, 53.3%)

香りはもったりと重厚なバタースコッチ、香ばしいスコーン、クロテッドクリーム添え、よく熟れた洋ナシ、古い家具のニュアンス。

味わいはやや繊細なタッチで、酸味強めの白ぶどう、スコーンとバターの風味、やや主張する樽のエグみ、プーアール茶、余韻はビターチョコレートとハーブリキュールの苦味が長く残る。

【Good/Very Good】

マキロップチョイスの1989年蒸留のグレンバーギー26年。

全体的に熟成感のある重めの味わいで、バターやクリームのようなややもったりとした印象の穀物&オイリーなニュアンスが良い。味わいは香りとは少し変わっていてやや繊細。甘さよりも様々な種類の苦味が特徴的。樽のニュアンスだったりカカオだったり薬草だったり。中心にはほんのりとした甘さがあるのだが、その周りに種々の苦味をとりそろえました、といったおもしろい構成になっている。これがシングルカスクというのも興味深い。どちらかというと幾つかの個性がブレンドされたような多層的なイメージなので、やや独特な樽に出会えたためにシングルカスクとしてボトリングされたのだろうか、などと推測してしまう。

1990年前後の蒸留の原酒ももう25年~30年の熟成になったわけで、いよいよ長熟の領域に。感慨深いですね。近年のスコッチウイスキーは全体的にどの蒸留所も酒質がクリアで安定したものになってきているが、そうなってきた時期としてはだいたい1990年頃という印象。逆に言うと徐々に個性が無くなってきているとも言えるのですが、オフフレーバー満載の「これはちょっと……」というようなものもほぼ無くなってきたので、歓迎すべき傾向ではありますね。全体的に75点~95点の範囲に卒なくまとまってきているな、と。逆に言うと、昔は個性的なものが多かったため、下は40点ですが上は120点が出てくるという時代だった。どちらが良いとは一概には言えないとは思うけれど、突き抜けた個性にもたまには出会いたいと思ってしまうところ。

このグレンバーギーは、ある種の個性が光っているな、と感じる一本でした。

オーヘントッシャン 26年 1990-2017 セレブレーション オブ ザ カスク #4971 53.9%

Auchentoshan 26yo 1990-2017 (Carn Mor “Celebration of the Cask”, Hogshead Cask#4971, 53.9%)

香りは透明感のある麦、糖蜜、レモンバウム、チーズケーキ、まだ少し生乾きの麦わら、グラッパに近いニュアンス、オリーブオイルのニュアンス。

味わいはピリピリと刺激的で、アップルシナモンティー、マーマレード、生姜湯、落雁のようなホロリとした甘さ、微かにしっとりとしたアーシーなニュアンス、生姜湯のほんのりとした甘さが短く切れ上がるフィニッシュ。

【Good/Very Good】

カーンモアのセレブレーションオブ・ザ・カスクから、1990年蒸留のオーヘントッシャン26年。

全体的に線の細い印象を受ける繊細な味わいで、軽めの甘さに、生姜のような刺激的ながらもサッパリとした味わい。緑色を連想させるグラッシーなニュアンスあたりに、ああ、オーヘントッシャンってこうだったような気がするな、という共通性を見出せる味わいだった。比較的プレーンな樽感で蒸留所の方向性を表現しているあたりは、セレブレーション・オブ・ザ・カスクのシリーズ全体に共通するように思う。

オーヘントッシャン蒸留所は、スコットランドの空の玄関口であるグラスゴー国際空港やグラスゴーの街からもほど近く、車で1時間もしないうちに到着できる。立地の良さから観光バスに乗ったツアーが絶えない様子で、スコットランドの旅の始まりか終わりに何回か立ち寄っているが、いつ行っても観光バスが到着する様子が印象的だった。グラスゴーの郊外ということもあって、周りは割と住宅が多い場所なのだが、その端に広々とした蒸留所の敷地があるのが不思議な印象。まあ、日本でもビール工場なら神奈川の横浜-生麦や、西部の大井町といった都市部&郊外(?)にもあるので、それと似たような感じかも。敷地の佇まいは、前者が随分と自然の中にあるような印象を受けるのに対して、後者はまさに工場そのもの、といった趣だが……。

後ろに住宅街が見えるオーヘントッシャンの風景

何の話かわからなくなってきたけれど、グラスゴーから近いオーヘントッシャンは、旅の最後あたりにふらっと立ち寄るのにも向いているのでおすすめですよ、というお話。新型コロナの影響が収まってきてスコットランドにまた行けるようになったら、立ち寄ってみたい場所です。

こちらは小瓶交換でチョイスして頂いたボトルのひとつ。あまり自分からはなかなか選ばない蒸留所なので、久しぶりに美味しいオーヘントッシャンが頂けました。ありがとうございました!

キルホーマン 2012-2019 信濃屋向けシングルカスク ジャマイカラムフィニッシュ #406/2012

こちらのラムカスクのキルホーマンも良い仕上がりです。

Kilchoman 2012-2019 (OB for Shinanoya, Jamaican Rum Finish Single Cask #406/2012, 56.9%)

香りは塩素、麦芽、糖蜜、ミカンのような柑橘、潮気もあるヨードのニュアンス、少し藁灰、微かにセメダインのニュアンス。

味わいは度数よりは若干まろやかな口当たりから、糖蜜の甘さ、柑橘の酸味、すぐに塩素とヨードたっぷりのピート感、クリアな麦の甘さ、レモン果汁、微かにソーセージのような旨味成分、穀物の甘さに藁灰のピートが残るフィニッシュ。

【Good/Very Good】

昨年2020年の夏に信濃屋さんからリリースされた、キルホーマンのシングルカスク。先日のWhisk-e向けとほぼ同様のスペック。あちらのジャマイカラム樽を一度飲んで好印象だったので、信濃屋さんから同様の樽のリリースがあると聞いたときには絶対に買うと決めていました。味わいは期待通り、やはりラム樽のサラッとした甘さが付与されていて、元々のキルホーマンの味わいから少しリッチな仕上がりに。こちらのボトルも上々の味わい。

香味の構成は、これもほぼWhisk-e向けと同じ。若干コクやフレーバーに違いはあるものの、もはや好みの問題、比較してみないとわからないレベルかと。

ジャマイカラムカスクの比較テイスティング

このボトルがリリースされたのは2020年の夏。今回テイスティングしたのは買った直後に開封して半年ほど経ってから、つまり冬になった今なわけだが、リリース当時の意図としては、暑い夏にラム樽のフレーバーも香る陽気なボトルがマッチするのでは、というものだったのではないかと。実際、夏でも結構消費したし、ハイボールも何回か試してみたところ実に美味いやつだった。また夏に向けて気温が上がってきた頃、5月あたりになるとさらに美味く感じるようになっているのでは、と期待。

Whisk-e向けがすぐに売り切れた一方で、こちらのボトルは信濃屋さんでまだ入手可能という、ちょっと不思議な現象が起きているのだけれど、今年の夏に向けて、お手頃でしっかり美味いシングルカスクのキルホーマンを買っておくのも良いのでは。買うなら今のうちですよ。

信濃屋さんもしっかり良い樽引っ張ってきますね。ありがたい事です。年始からプライベートボトルの情報も出てきていますし、今後も楽しみです。

キルホーマン 2011-2019 Whisk-e向けシングルカスク ジャマイカラムフィニッシュ #140/2011

アイラモルトとラム樽、相性良いですね。

Kilchoman 2011-2019 (OB for Whisk-e, Jamaican Rum Finish Single Cask #140/2011, 56.2%)

香りは塩素、ハチミツ掛けのトースト、ミカンとレモンの柑橘フレーバー、ヨードのニュアンス、少し藁灰、青い草のニュアンス。

味わいは度数よりは若干まろやかな口当たりから、糖蜜の甘さがしっかりと主張、コクのある麦芽、柑橘の酸味、すぐに塩素とヨードたっぷりのピート感、微かにモルトビネガーのニュアンス、穀物の甘さにピート感がしっかりと残るフィニッシュ。

【Good/Very Good】

2019年にWhisk-eさんからリリースされた、キルホーマンのシングルカスク。およそ8年の熟成とまだ若い部類に入るはずだが、しっかりとした味わいの良いボトル。

キルホーマンは100%アイラシリーズを始めとして国内でも評価はかなり高まってきていて、素性の良さはもはや折り紙付きとも云えるだが、この樽に詰められた原酒もしっかりとした良いものであったことが伺える。そしてラム樽でのフィニッシュ。過去いろいろとラム樽のモルトを飲んできた経験からは相性の良さは抜群だと考えてたけれど、このキルホーマンも良い方向に作用している。ピートは若さをマスクして良い方向に作用さるけれど、さらにそこにサラッとした甘さが加わり、甘じょっぱくピーティな味わいに。言葉にすると一見変な感じだけれど、飲んでみると分かる旨さ。こういうアイラモルトが飲みたかったんですよ。

このボトルは、過去の持ち寄りの際に頂いたものでとても好印象だったので、思わずあちこち手を尽くして探してみたものの軒並み売り切れ。隠れた良いボトルという位置づけだったと思うのだが、分かる人は分かってるんだな、ということを痛感。運良く一本手に入れることができたのは本当にラッキー。

この後に信濃屋向けのラムカスクフィニッシュのボトルも出てくるけれども、こういうラム樽のキルホーマンで、18年くらいの熟成になったものも飲んでみたい。若さが抜けて熟成感が出てきたアイラモルトに、ラム樽の作用がどういうふうに効いてくるのか。きっと美味しいと思う。熟成庫にはまだラム樽のものも残っているとは思うのだけれど、いかんせんそれがシングルカスクとしてリリースされるのか、そして日本に入ってくるのか分かりませんがキルホーマンの今後の成長と共に楽しみに待ってみたい。

ティーニニック 17年 1999-2017 200周年記念ボトル

200周年記念のティーニニックは、やはり独特の香味でした。

Teaninich 17yo 1999-2017 (OB “Celebrating 200 years”, 55.9%)

香りは洋ナシ、アプリコット、ジンジャーシロップ、ユーカリの葉、少しシナモンとハッカのニュアンス。

味わいは意外と穏やかな立ち上がりで、洋ナシ、さとうきび、生姜湯、ミドルからの樽感はドライでセメダインのニュアンス、苦味のあるスパイス、ブラックカルダモン、焦がしたメティ、さらりとしたジンジャーシロップにざわつく植物感が残るフィニッシュ。

【Good/Very Good】

2017年にリリースされた、ティーニニック蒸留所200周年記念のボトル。ディアジオの年1回のスペシャルリリースで、普段は出てこないティーニニック蒸留所もこのときばかりは特別ボトルが準備されました。実に3年遅れとなってしまいましたが、ずっと気になっていたボトルでした。

生姜湯のような口の中がキュッとする感じのほのかな刺激と甘さ、独特の苦味のあるスパイス感がアクセントとなっていて個性的。ハウススタイルとも言えるシナモン様はやや控えめながら、確実に「そこにいる」存在感はさすがにしっかりとツボを抑えています。全体的にプレーンな樽感はディアジオスペシャルリリースらしい方向性。55%の度数を感じさせない味わいは不思議のひと言です。

どことなく他の蒸留所とは異なるスパイス感あふれる香味は、やはり個性的だと思いました。

ティーニニック蒸留所の風景。キルンも無く、傍からはただの工場のよう。まさに原酒工場。

ティーニニック蒸留所は、ここははっきり言ってブレンド用の原酒工場。生産量はアルコール換算1000万リットルを超えるスコットランド第7位のド級な蒸留所。しかしシングルモルト向けのリリースはごくわずか。全体の1%にも満たない状況です。そんなティーニニック蒸留所のシングルモルトは、万人受けするような中庸なタイプというよりは今回のボトルのように風変わりなスパイシーさを持つという、なんだかちょっと矛盾しているような気もします。この辺の個性は実はブレンデッドには重宝されるのでしょうか。昔からいまひとつピンとこないところだったりします。

とはいえ、昔からあまり変わらないハウススタイルを保ち続けるのがスコットランドの蒸留所に課せられた使命のような部分もありますので、その点では割りと一貫性を持って作ってきているのでしょう。ブレンデッド・ウイスキーもこの味ありきで混ぜていくスタイルが確率されているのでしょうね。

ところでこのボトル、ちょっとおもしろい仕掛けが。

電気を消してみるとこの通り、Teaninichのロゴが夜光塗料になっているようで、ぼんやりと暗闇で光っています。面白い、という感想と同時に、なんだこれは……という謎の感覚。果たしてここを夜光塗料にする必要があったのか、何か隠された意図があるのかと勘ぐってしまいましたが、全く思いつきませんでした。Barだとちょっと映えるんですかね……?

不思議な記念ボトルでしたが、ティーニニック蒸留所が次の100年も続いていきますように。200周年おめでとうございました。